光速ノート　121−130

８月13日、ながの東急将棋まつり、席上対局は山崎七段と。20分30秒という持ち時間はいつもの研究会と同じ条件である。 　後手番。▲７六歩△３四歩▲２六歩△９四歩▲２五歩△９五歩というスタート。角交換から四間飛車に。 　山崎七段の方も意欲的な駒組。来るか、と思っていたら第１図からやはり▲４五桂。こうでなくては面白くない。以下、△４四銀▲２四歩△同歩▲同飛△２二歩▲２三歩△４五銀▲２二歩成△３三角▲２五飛△３六銀▲２六飛△３七銀不成▲２七飛で第２図。２五〜２六〜２七と銀に当てて一つずつ引くのがポイントで、▲２三飛成とすると△２二飛とぶつけられてしまう。

第２図で次の一手に。△８八角成を正解としたのだが、▲同玉△２六銀打▲２九飛△２八歩▲同銀△３八銀成▲５九飛の進行は後手の駒が重い。第２図では△２二飛▲２三歩△３五桂▲３七飛△２三飛だったか。△３五桂も重い手だが、これで▲３四飛を防いでいる。

進んで第３図。ここで△２八飛成なら△５九竜の先手だが、受けられた後に▲５五角のラインに入るので、わざと△２九飛成。意表を突かれた山崎七段が▲２二歩と間違えたため、△３八竜で優勢となった。▲２二歩では、▲６八銀△３八歩▲５五角△１七竜のような展開なら熱戦が続いていた。 　短手数だったが、興味深い内容だったと思う。 　　　　　　　　　　　　×　　　　　　　　　　　　　　　　　　× 　プレゼント大会にたくさんの御応募、有難うございました。また、竜王戦の方は不出来な将棋で申し訳ありません。気を取り直してまた頑張ります。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（８月17日　記）

８月30日、郷田九段との順位戦。 　ゴキゲン中飛車、郷田九段の仕掛けをとがめて、第１図では指せる形。だが、そのために良くしなければ、と力が入り判断を誤ってしまう。 　第１図では△３三桂と指したかったのだが、▲２五歩△同桂▲２八飛で良くない。実戦は△５六歩▲６八銀の後、△３四銀と３筋を受ける。しかし、▲５五銀と出られて、また△４三銀と引くのでは変調。△３四銀では△８二玉と寄り、▲３五銀と出させて△４二角〜△６四角を狙うのが柔軟な指し方だった。 　以降も勝負手を逃し、最後は大差に。

８月31日、午後の新幹線で上京。 　ホテルでマッサージを受けている時に、新作の構想が閃く。40手台の中編が割合すんなり完成しそうで、少し気分が晴れる。 　９月１日、加藤九段との達人戦決勝。 　昨年と同じ顔合わせ。違う将棋にしたいと思っていたので、昨年と入れ替わって後手番になってホッとする。 　８月はこれで大事な将棋を負けたが、もう一度ゴキゲン中飛車。ただ、加藤九段に最新の対策で応じられたのは意外だった。 　二転三転しての第２図。ここでの▲４四角が筋違いで、△４八角と飛を攻めて良くなった。第２図では、解説の中原永世十段指摘の▲７四銀△同金▲６三角なら難しかった。

四回の決勝の中では一番内容が悪かったが、何とか優勝。正直な話、少なくとも佐藤康光さんが参加するまでは譲れない、という気持ちはある。 　９月２日、京都で途中下車。故河合隼雄先生の追悼式に参列。 　偉大な業績を残された先生と、対談の本を出す機会を得られたのは幸運だった。改めて先生に感謝の意を表してお別れした。 　今週は対局はなし。研究の一週間にしたい。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（９月３日　記）

９月30日、広島。森内名人との日本シリーズ。 　先手。森内名人の作戦は９筋の位を取ってからの向飛車。６・７筋の位を取って対抗したのだが、これが全くの時代遅れの指し方で作戦負けになる。ただ、森内名人が動いてくれたので混戦に。 　第１図は△８七角打とつながれた局面。△７七金に▲同桂と取る手が王手になるのでここは勝ちになっている。それなのに、▲８八金が一手の価値のない凡手で、△７七金▲同桂△７六玉とされて負け。

第１図では▲５七飛成が盤上この一手。▲８六歩以下の詰めろになっているし、△７七金も▲同桂で即詰み。△７八銀成▲同金△同角引成▲同飛△同角成▲同玉△６七金打と迫っても、飛二枚では届かない。 　▲５七飛成は見えていたし、考慮時間もまだ１分残っていた。何故手拍子で指してしまったのか、悔やまれる一局だった。 　　　　　　　　　　×　　　　　　　　　　　　　　　　　　　× 　成績が悪いと筆も重くなり、一ヵ月ぶりの更新となってしまいました。 　今日から10月、阪神タイガースもようやくＣＳ進出を決めました。今岡さんもホームランを打ち、何とか間に合ったようです。 　それから、今はまだ公にはできませんが、良い知らせも一つありました。気持ちも新たにまた頑張ります。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（10月１日　記）

10月21日、大和証券杯、東西対抗。羽生二冠と。今回は大阪の連盟で対局。 　一回戦の振り駒により、自動的に後手と決まっている。一手損角換りを選ぶ。 　第１図から、△５七銀▲同金△３八桂成▲同角△５七歩成▲同玉△６三玉▲５二歩△同飛▲５三歩△同飛▲５四歩△同飛▲５五歩△同飛▲５六歩△７五飛で第２図。 　△６三玉が▲４二銀打の王手飛車を避けながらの味の良い王手。△７五飛と転回して、第２図で▲２七角なら△６五桂でピッタリ詰む。

△６三玉が▲４二銀打の王手飛車を避けながらの味の良い王手。△７五飛と転回して、第２図で▲２七角なら△６五桂でピッタリ詰む。

実戦は第２図から、▲５五桂△５四玉▲６五銀！△同歩▲４三桂成。ここで△５八金▲４七玉△４八金▲５七玉△５八金▲４七玉で時間稼ぎをした後、△３八角成▲同玉△４八金▲２八玉△３八金で即詰みとなった。 　だが、第２図では羽生二冠指摘の▲６五桂があった。△同歩に、感想戦で検討した▲２七角ではなく、▲６四銀△同玉▲５五金△７三玉▲６四銀で飛を抜いてしまえば、先手が残していたか。 　こうしてみると、第１図から△５七銀▲同金の後、△３八桂成が余計だったのかもしれない。 　充実した１時間半だった。対抗戦の方も西の６勝１敗という予想以上の結果となった。 　　　　　　　　　　×　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　× 　はるばる中国からも書き込みがあったようなので、光速ノートで振り返ってみました。 　前々回の「良いしらせ」については、次回で御報告できると思います。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（10月22日　記）

11月16日、久保八段と順位戦。 　この日はＢ２の一斉対局もあり、関西会館の５Ｆは全部で六局。内藤九段、加藤九段、森九段、桐山九段、土佐七段と、先輩が五名も揃うのは本当に珍しい事で、重厚な雰囲気の中で対局が始まった。 　最近の対久保戦は相振飛車が多いのだが、この日は居飛車と決めていた。第１図は想定していた局面の一つである。

ここから、▲３五歩（77分）△同歩▲１四歩（62分）と久保八段は惜しみなく時間を使う。▲３五歩の突き捨ては▲３三歩の叩きを作った手筋。その後、先手は▲６四歩の突き捨てを入れたいのだが、△８六歩▲同歩△３六歩▲同銀△４六角▲４七金△６四角と角を転回される順を気にした。 　第２図は△１二歩と受けた局面。△１三同角と成香を取ると▲１四香があるので仕方がないのだが、ここは自信がなかった。

第２図での▲２二銀が敗着。▲５六歩なら△４七歩成▲同金上△６五桂▲４六歩△５七桂成▲同金△７九銀が一例で、難解な終盤戦だった。 　23時17分、割合早い終局。感想戦は中盤を中心に１時間半。１時、連盟を出てタクシーに乗る。帰宅後、風呂へ入るが、寝付けそうにないのでネットで他の対局を確認。横になったのは３時前だった。 　　　　　　　　　　×　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　× 　たくさんの書き込み、どうも有難うございました。厳しい状況に変わりはありませんが、注目される中で対局できる事を喜びと感じ、残り四局も頑張ります。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（11月19日　記）

12月10日、佐藤二冠との王将戦。 　第１図は103手目。▲６六歩と歩を取った局面。ここで△６七銀は、▲６九玉△６八歩▲５九玉△３八銀の時に、▲６七金と銀を取って先手勝ち、というのが二人の一致した読み。

ところが、▲６七金に対して堂々と△同桂成（第２図）と取られると、何と後手玉に詰みがない。例えば、第２図から▲７三銀△９二玉▲８三銀成△同玉▲８四銀成△同玉▲６二角△７五玉▲２五竜の時に、５五に打つ一歩がちょうどある。△６七同桂成が７五の退路を作る重要な一手になっている事に注目して頂きたい。

実戦の△８七桂成▲同桂△８六銀（第３図）は予定変更の攻め。ただ、読みにない手を指されてこちらの方も慌ててしまった。王手竜取りの筋があるので▲８三銀成を急いだのだが、△同玉▲６四と△４三銀で却って寄せにくくした。

第３図では▲６九玉の早逃げが正着で、△８七竜なら▲８八歩と受ける。これなら僅かに残していたか。 　　　　　　　　　　×　　　　　　　　　　　　　　　　　　　× 　12月13日、家族で神戸ルミナリエを観に出掛ける。 　神戸の冬の風物詩として定着したルミナリエ。赤字のために存続が危ぶまれているが、震災の犠牲者への鎮魂として始まったものである。来年以降も続けてほしいとの願いを込め、心ばかりの募金をする。 　　　　　　　　　　×　　　　　　　　　　　　　　　　　　　× 　プレゼント大会にたくさんの御応募を頂き、有難うございました。当選された四名の方、おめでとうございます。 　寒くなってきました。皆様くれぐれも、御身体御自愛下さい。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（12月13日　記）

謹賀新年。今年も応援ページをよろしくお願い致します。 　掲示板の方でも既に書き込みがありましたが、１月10日に「棋士名鑑一．谷川浩司」のＤＶＤが発売になります。 　内容は、思い出の対局ベスト３の解説、関西将棋会館と神戸でのインタビューなど、約１時間、定価は３，１５０円で、東西の将棋会館、将棋連盟のデジタルショップ、紀伊國屋書店などで販売されます。 　そして、このＤＶＤ発売を記念して、１月20日に紀伊國屋サザンシアターでトークライブを行なう事になりました。 　将棋連盟が棋士個人のＤＶＤを製作するのは初めてで、色々と苦労もありました。撮影の裏話などもできればと思っています。是非お越し下さい。 　　　　　　　　×　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　×

12月27日。佐藤二冠との順位戦。 　第１図は62手目の局面だが、中盤が20手ほどしかなかったので既に寄せ合いになっている。但し、ここは先手優勢。▲６一金が厳しく後手陣は受けのない形なので、▲６八銀打△７七桂成▲同銀と丁寧に受けておけば良かった。 　実戦は▲７一金。震えてはいけない、と強く踏み込んだのだが、これが危険な一手。以下△７七桂成▲同桂△同竜▲同玉△８五桂▲６八玉で第２図。

ここで△６七歩と叩かれていたら大変だった。対して、感想戦で検討した▲６七同角△６六銀▲７二金△９二玉▲５九玉！か、控え室で調べられていた▲６七同玉！か。何れもギリギリの勝負だった。 　本譜△６六銀には、▲７二金△９二玉の時に▲８六銀がピッタリの一手である。 　大きな一勝。とは言え、攻め急ぎが二度あって、反省すべき一局でもあった。